西村 木綿子(2010)
「DV 被害者の生活問題とソーシャルワークの課題ー民間シェルターの実践と事例検討を通してー」

掲載日:2024年5月4日 

論文


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論文名 DV 被害者の生活問題とソーシャルワークの課題ー民間シェルターの実践と事例検討を通してー
English Paper name The lives of DV victims and the problem of social work: practice at privately-run shelters and case studies
著者 西村 木綿子
発表年 2010年

論文要旨

DV被害者を支える支援は、被害者を支援する女性団体や専門家などによって始まり、民間や公的には婦人相談所や婦人保護施設で取り組まれている。被害者が継続的な人権侵害を受けてきたことによる心の傷は深い。被害当事者の自己決定を支え、回復の家庭を見守りながら、具体的な生活困難の解決にとりくむ姿勢や、生活問題、心のケア、子どもへの支援などを包括的に捉える力を軸にしてソーシャルワークの展開が必要である。被害者が生活全体で自分自身が尊重されることを体験しながら、生活再建に取り組める豊かなソーシャルワーク実践とは何にかを問うことを目的とし、民間シェルターの実践を通じて、DV被害者の抱える困難と暴力の実態を明らかにし、ソーシャルワークの課題を検討していく。

論文の引用

引用セクション/ページ:88

 加害者についても、教育レベル、収入の高低、職業の有無や種類にかかわらず多様であり、公務員や会社員、専門技術職なども加害者の職種としてはしばしば見られ、DVが加害者の学歴や経済背景とかかわりなく起きているといえる。
 また、DV被害者の女性たちに共通する背景、学歴、仕事も見られない。しかし、被害を受けた女性たちに見られる低い自己肯定感、心配、過剰不安、心理的及び身体的府庁、安定剤などの薬の使用といった状況はある程度共通するものであり、繰り返し受ける暴力による結果である。

引用セクション/ページ:89-90

 DVは、夫婦ゲンカの延長でたまたま夫が妻を殴るというようなものではなく、「家庭・家族」という私的な関係を悪用したもので、男性と女性の社会的なあり方に根ざした、すなわち「ジェンダーに特殊な犯罪」であるといえる。
 DVの特質と構造を理解するためには、「暴力のサイクル理論」を考えることが必要である。これは、アメリカの心理学者レノア・Eウォーカーが説明しているもので、DVは3つの局面からなるサイクル(周期)によって構成されている。3つの相は、緊張が高まる第1相、爆発と虐待が起こる第2相、穏やかな愛情のある第3相であり、それらが繰り返されるのである。
(中略)
ただし、被害を受けたすべての女性がこのサイクルに当てはまるとは言えない。人によって3つの局面の長さが違い、順番に3つの段階を踏むとも限らないとその後の様々な調査で明らかになっている。

引用セクション/ページ:90-91

 DVは一つの暴力(とりわけ身体的暴力)のみ起こるものではなく、いくつかの暴力の複合体であり、それは同時にまたは連続してふるわれる場合が多い。つまり、様々な暴力の組み合わせが家庭の中で、継続されているのである。
 このようなDVの本質と構造を表しているのが、図2の「パワーとコントロールの車輪」である。
(中略)
外輪にあたる部分が見えやすくわかりやすい身体的暴力である。そして、身体的暴力に隠れて見えにくくなっているが、車輪のように外輪を支え、回りやすくしているのが、心理的暴力や経済的暴力、性的暴力などの多様な暴力である。中心にあり、車輪の動力になっているのが、「パワーとコントロール」、つまり男性の権力、社会的な地位や影響力、経済力、体力などの力と男性優位の支配という社会の性差別構造をここでは表している。

引用セクション/ページ:97

暴力を受けたことにより、身体的障害が残るだけではなく、精神にも影響を及ぼしていると指摘している。それは、直接、暴力を受けなくなった後でも暴力を受けていたころの恐怖が消えないということである。

引用セクション/ページ:98

子どもは家庭内でおきている暴力や傷つきについて自分から外へ語ろうとすることは少ない。押し込めた感情が抑うつ的で外に関係を持つことを拒んだり、怒りを爆発させたりして表すため、子ども自身の問題として捉えられてしまうこともある。子どもが暴力を木k激して育ったことについて、その影響をとても心配している母親や、自分もいつか暴力をふるう人間になるのではないかと気にしている子どもがいることも明らかになっている。

引用セクション/ページ:98

子どもが暴力から受ける影響は、感情麻痺、低い自尊心、無力感などから身体的発達の遅れ、言語発達や運動能力の遅れ、不眠や摂食障害などの身体的な影響、情緒不安や適応障害、自殺企図、不登校や引きこもりなど身体的影響があげられる。これらの影響は、子どもへの虐待によるだけでなく、DVが及ぼす被害である。DVは個人の問題とされることや、夫婦の問題とするのではなく、深刻な子どもの成長・発達に大きく関係していることを認識すべきである。


論文の公開 (国立国会図書館サーチ)https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000004-I10615592#bib
掲載書誌 佛教大学大学院紀要.社会福祉学研究科篇.(38)pp.87-104
資料種別 論文
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